SX20 -特徴-
高速反応速度論研究のために
- 極めて優れたマイクロボリューム性能と卓越した感度によりサンプル消費量を最小限に
- 500マイクロ秒未満のデッドタイムにより、3000s-1を超える反応速度を追うことが可能
- システムの再構成を行うことなく、吸光および蛍光アプリケーションに最適化
- パワフルで操作性の良い測定、描画および解析ソフトウェア
概要
ストップトフロー装置SX20は、反応物の急速な混合および停止(ストップトフロー)により開始される、高速な液相の化学および生化学反応の過渡前定常状態を研究するために使用されます。時間の関数としての分光シグナルの強度変化を記録することにより反応の経過を観察するために、吸光や蛍光といった分光学的プローブが採用されています。ストップトフロー分光法で測定可能な一般的な反応速度の上限は~2000s-1です。しかし、SX20の採用する小ボリュームセルを用いることで、3000s-1以上の反応速度を測定することが可能になります。
ストップトフロー分光法の応用範囲は多岐に渡り、数千もの応用例を文献から見つけることが可能です。ストップトフロー分光法の数多くのアプリケーションには、酵素触媒反応やタンパク質のフォールディング、信号遷移、タンパク質やDNAへのリガンドや薬物のバインディング、配位化学の反応速度論が含まれます。
SX20はストップトフローの分野における明らかなマーケットリーダーです。アプライドフォトフィジックス社では世界中で今日使用されているストップトフロー解析システムの半分以上を供給しており、これらの機器は、これまでに2000以上の学術論文を作成するために使用されています。
光源
ストップトフロー装置SX20のランプハウスには、オゾン非生成型150W Xeランプ、オゾン生成型150W Xeランプおよびオゾン生成型150W Hg-Xeランプの3種類のランプを取り付け、使用することができます。全てのランプは、アプライドフォトフィジックス社の規定する厳しい仕様基準を満たすことのできる、優れた安定性および耐久性を有しています。
標準システムに付属するオゾン非生成型Xeランプは、非常に幅広い範囲のアプリケーションに適しています。オゾン生成型Xeランプは、240nm以下の波長域でオゾン非生成型ランプよりも強い光強度をしめします。Hg-Xeランプは、Xeスペクトルに加えて強いHg放射光ラインをしめすことから、蛍光光度や円二色性(CD)測定などの特定のアプリケーションに適しています。下図はXeランプ(赤)とHg-Xeランプ(青)の放射光プロファイルを比較したものです。
ランプハウスには、オゾン生成型ランプ使用時のための窒素パージ機構とランプ位置調整機構を搭載しています。ランプは容易に交換することが可能な仕組みですが、頻繁にランプを交換する場合(XeランプとHg-Xeランプの交換など)は、スペアのランプハウス用バックプレートをご利用いただくことをお勧めします。スペアバックプレートを利用することで、ランプを交換作業が非常に簡略化され、ランプの光軸調整を行う必要もなくなります。
ランプ用電源ユニット(PSU)は、安定した光出力のための最適化されています。ランプ点火には"セーフスタート"イグナイターシステムが採用されており、周囲の電子機器に対して悪影響を与えません。
測光精度
濃度変化測定のために分光光度法を用いる場合、ある種の基準を満たす必要があります。吸光度測定に関しては、吸光度が濃度に直接的に比例した値をしめすために、ランベルト・ベールの法則に一致している必要があります(A=e.c.l、e=減衰係数、c=濃度、l=光路長)。紫外領域で正確な吸光度を測定する場合は、分光器の迷光に特に注意を払う必要があります。重クロム酸カリウムは、分光器の性能評価をするために、非常に便利な標準試薬です。下図のスペクトル・プロットは、標準仕様のSX20が短波長側240nmまで良い性能を有しており(緑および青)、SX/AMアクセサリーを用いてダブル・モノクロメーター構成にした場合は200nmまで非常に優れた性能を有していることを示しています(赤)。
オゾン非生成型ランプは波長230nm以下の光を発光しません。よって、モノクロメーター1台の構成で測定されているこの波長域の吸光度(緑)は、迷光によるものです。オゾン生成型ランプは230nm以下の光も発光しますので、モノクロメーター1台の構成で測定されているこの波長域の吸光度(青)は、実際のサンプルの吸光度と迷光が組み合わされたものです。オゾン生成型ランプとモノクロメーター2台の構成(SX/AMアクセサリー)を組み合わせた場合は、迷光の影響が全くない状態で200nmまでの正確な吸光度測定が可能になります。この比較データから、モノクロメーター1台構成の場合、少なくとも240nmまでで正確な測光精度が得られることが分かります。
セル・デザイン
吸光度測定
標準仕様の20μLセルの寸法は10mm x 2mm x 1mmで、10mmと2mmの2種類の光路長を選択して使用することができます。光学窓は黒色石英でマスクされています。光路長は、フォトマルチプライヤー・ディテクターとライトガイドの位置を変更することで切り替えることができ、その際の作業時間は1分程度です。
蛍光光度測定および内部フィルター効果
SX20の光学セルには、蛍光硬度測定専用の非常にユニークな”5番目の測定窓”が用意されています。この5番目の測定窓には次のような特徴があります。
- セル内部にライト・パイプが内蔵されていることから測定可能な蛍光を最大にし、測定感度を増加させる。
- 測定感度を低下させる要因となるセル・ボリュームの削減を行わず、内部フィルター効果を最小限に抑える。
- 吸光度測定および蛍光硬度測定を切り替える際に、機器の構成変更が不要。
蛍光光度測定の場合、測定信号強度がサンプルの吸光度に比例すると仮定する前に、内部フィルター効果(または自己吸収効果)を考慮する必要があります。内部フィルター効果は、サンプルからの蛍光光が溶液内部を進行する間に、サンプル自身によって吸収されることです。それゆえ、検出される蛍光シグナルは非常に小さくなります。よって、反応中の全蛍光光度は非指数関数的蛍光カイネティクスをしめします。
内部フィルター効果は、サンプル濃度を低くするか、光路長を短くすることにより軽減することが可能です。SX20の標準仕様の20μLセルでは、5番目の10mm x 1mmの測定窓を使用することで、光路長を1.5mmと短くすることが可能です(セルチャンバーの中心からの光散乱を想定した場合)。通常の2mm x 1mmの測定窓を使用した場合の光路長は5.5mmと長くなります。いずれの場合も光学セル内の全溶液に励起光が照射されます。
もし、この標準セルに5番目の測定窓がなかったと想定すると、いずれの励起ポートを使用したとしても光路長は6mmとなります。この長い光路長は測定可能なサンプル濃度の上限を低くすることになります。
ランプ安定性
光源の安定性は、シグナルの小さな変化を検出したり、トレースの再現性を保つために非常に重要な要素です。ランプ安定性は、いくつかの種類の時間設定での安定性テストによって評価することが可能です。まず、時間設定100ミリ秒では、供給電源の周波数に関連した、ランプ電源からのリップルを検出することができます。また、100ミリ秒のテストでは、ランプからの光量が不十分であった場合に見られる、フォトマルチプライヤーからのショットノイズを検出することができます。プラズマ不安定性などの他のタイプのランプ不安定性は、1秒から10秒の測定時間で検出することが可能です。 下図のトレースは、標準的なSX20のオゾン非生成型Xeランプのパフォーマンスをしめしています。このテストで使用したSX20はデータ測定前にランプ安定性を最適化されています。0.001AUの吸光度変化は、0.25%のシグナル電圧変化に相当します。
デッドタイム測定
ストップトフロー測定機器のデッドタイムは、有効な反応測定が開始されるまでの最短時間と定義されます。デッドタイムが短いことは、非常に速い反応を測定するための重要な要求要素であり、デッドタイムの値が、そのストップトフロー測定機器のカイネティック性能やサンプル処理部全体の設計性能の目安となります。
NAT(N-acetyltryptophanamide)とNBS(Nbromosuccinimide)との間の蛍光消光反応は、デッドタイム測定の非常に便利なツールです[1]。1:1と1:10の混合比で、NATと濃度を変化させたNBSを混合させたときのデータを下図にしめします。混合後の各溶液の濃度は、10-5M(NAT)および5x10-5~5x10-3M(NBS)です。励起光は280nmで、蛍光強度測定には305nmのカットオフフィルターが使用されています。
デッドタイムは、初期シグナル vs 反応速度係数を直線プロットしたトレースの傾きとして計算することができます。下図は、プロットデータと1:1および10:1混合に対応したデッドタイムをしめしています。この結果から5μLセル(SX/RC5アクセサリー)を用いることで、デッドタイムを飛躍的に改善させることができ、3500-sを超える反応速度の測定が可能になることが分かります。
上記手法とは別に、SX20ではソフトウェア制御によるデッドタイム測定が可能です。3液混合オプション(SX/RC5アクセサリー)を使用することで、Pro-Dataソフトウェアからストップトフロー・ドライブを行うだけで、簡単にデッドタイムを測定することができます。この機能を使用すると、ドライブの経時変化とともに、合計送液量や最終溶液速度およびデッドタイムが算出されます。この方法により、上記のような時間がかかる化学的手法を用いることなく、ドライブ圧力や送液量、溶液速度がデッドタイムにどのような影響を与えるかといった、パフォーマンスをチェックすることが可能です。
低温カイネティクス
標準仕様のSX20は、追加アクセサリーなしで-20度から+60度の温度範囲で動作させることができます。低温で動作させる際に、特別な機器の設定は必要なく、3液混合構成でも同じ温度範囲でご使用いただくことができます。
-22度から+24度の温度範囲でのSX20の性能をしめすために、2,4-DNPA(2,4-Dinitrophenylacetate)のメタノール溶液の加水分解を例にご説明します。100mM 2,4-DNPAメタノール溶液と0.3M NaOmeメタノール溶液を1:1で対称混合し、加水分解します。このとき、ストップトフローデータは、360nmで測定されています。水とエチレングリコールの混合液(50:50)を冷媒としてサーキュレーターをSX20の恒温槽に接続します。
上図は測定温度範囲の上限および下限で測定した、カイネティック・トレースです。各温度で測定されたトレースを解析し、アレニウスプロットを生成したものが下図です。各データポイントがリニアに配列していることから、SX20は低温でも優れたパフォーマンスを有していることが分かります。